国際法と世界平和


渉外弁護士 佐々木 満男


(注)本稿は1998年10月12日ホテルリッチ横浜における神奈川ロータリークラブでのスピーチを修正・加筆したものです。





1.はじめに


本日は、神奈川ロータリークラブのプログラム委員会委員長高坂知儀さまのご要望によりまして、「国際法と世界平和」というまことに大きなトピックについてお話をさせていただきます。

先日高坂さまと本日のお話の打ち合わせをいたしました時に、北方領土問題や尖閣諸島、竹島問題などの長年の懸案がなぜ国際法によってすっきりと解決できないのか、との率直なご質問をいただきました。私はロータリークラブの会合の内容についてお伺いしたのは初めてですので、「皆さまは随分高度な事柄についてご関心をもたれているのだなあ」と大変感銘を受けました。しかし北方領土問題等の具体的事案についてこまかい法律論をお話ししても、法律の専門家でない方々はかえって退屈されるのではないかと思います。そこでやや抽象的になりますが、「国際法と世界平和」についての私の個人としての理念をお話してみたいと存じます。




2.国際法とは

まず、「国際法」とはなんでしょうか。この国際社会では国際法という法律があって、国内法と同じように、世界各国に適用されていると、多くの方々がお考えになっています。実はそうではありません。簡単に言うと、世界のいろいろな国々が他の国々といろいろな取り決めをしておりますが、これらを全部ひっくるめて国際法と言っているのです。日米安保条約のような2国間の取り決めもあれば、国連(憲章)条約のように多国間の取り決めもあります。また、宇宙開発契約のように国際間の契約が定型化してくると、実質的に国際法的な役割を果たすことになります。しかし、世界の国全部が合意した取り決めは未だに一つもないのです。

また、国と国との取り決めは、いつでも当事国全員の合意で変更したり、取りやめたりすることができます。場合によっては、国家間の取り決めを一方的に無視して軍事力で他国を侵略したりすることもあります。このような場合に、国連や国際司法裁判所また国際世論によるけん制はあります。しかし、必ずしもそれが有効であるとは限りません。「勝てば官軍、敗ければ賊軍」というような論理、要するに「強い者勝ち」の論理がまかり通っているのです。

このように、国際法は未発達の段階であって、現時点において世界平和を達成する手段としては無力の場面が多々あります。しかし今後、国連の力がますます強くなり、国際司法裁判所の権威が確立して、国際法が発展していくと、全世界の国々に国際法がそのまま平等に適用される時代が来るかも知れません。国連の国際法委員会においても、統一的世界法を目指して、数々の国際法の草案が作られています。世界は自己防衛という意味での平和の達成のために必然的にそのような方向へと進んでいます。




3.世界平和とは

次に、「世界平和」とはなんでしょうか。世界平和とは、「世界中の国と国との間に紛争がない状態」であると、誰もが考えるでしょう。しかし本当でしょうか。

人と人の間に個性のちがいがあるように、国と国の間にも民族性、言語、文化、宗教、伝統、歴史、習慣等の様々なちがいがあります。このようなちがいをお互いに尊重して、ちがいをそれぞれの長所として、お互いに協力し合うことができるなら、そこには真の平和があると言うことができます。

しかし、そのようなちがいを無視して形だけの紛争のない状態が国際法あるいは統一的世界法によって作られるなら、それは力の強い国が力の弱い国を強制的に支配することであり、決して私たちが真に望んでいるような平和ではありません。

父親に対して妻や子供たちが何も意見が言えないような家庭は、外見では平和な家庭ですが、幸せな家庭ではありません。そのような家庭からは、いつ家出人が出るか、家庭内暴力が発生するか、浮気による離婚が生まれるか、わからないのです。いつかは崩壊してしまいます。

家族がお互いに愛し合って、なんでも自由に言えて、自由に行動でき、しかも家族としての秩序が保たれるような関係にあることが、真に平和な家庭です。

将来国際法がますます発展して、全世界の国々をカバーするようになったとしても、そこに真の平和が達成されるでしょうか。今日、世界には2万6千発の核弾頭があると言われています。核不拡散条約の重要性が叫ばれていますが、今年の5月にはインドとパキスタンでほぼ同時に核実験が行われています。一部の狂信的集団が自暴自棄になって他国へ核ミサイルを発射するなら、連鎖的に核戦争が始まってしまう可能性が常にあるのです。

国際法がいくら発展しても、人々の心まで変えることはできません。ですから結局、国際法のみによっては、いつまでたっても恒久的な世界平和を達成することはできないのではないかと思います。




4.愛によってこそ

それでは世界平和はどのようにしたら達成できるのでしょうか。私は、「真の恒久的な世界平和は個人個人の真の愛(隣人を自分のように愛する愛)によってしか達成されない」と信じています。

本日皆さまに「蒋介石の温情」と題するある雑誌(レムナント)の記事のコピーを配布いたしました。そこには、第二次世界大戦終結時に敗戦国日本に対して示した、戦勝国中国の蒋介石総統の歴史上まれにみる寛大な処置と温情について書かれています。

それは天文学的数字にのぼる巨額の戦争賠償金の対日請求権の全面放棄、戦勝連合国による日本4分割占領の阻止、中国大陸の2百万人を越える残留日本軍民の安全帰国の早期実現、天皇制の存在を日本人の考え方にゆだねること等を含んでおります。

日本から最も甚大な被害を受けた中華民国の総統が、なぜこのような常識ではとても考えられないような寛大な措置をとったのでしょうか。それは蒋介石が熱心なキリスト信者であったからです。聖書の「汝の敵を愛せ」(マタイ福音書5:44)、「怨みに報いるに徳をもってせよ」(ローマ書12:21)の言葉を、そのまま実行したからです。

戦勝連合国は日本に対してどのような取り決めもできたわけです。いわゆる国際法によって日本を完全に支配することができたのです。しかし1人のリーダーの愛によってそれは実現しませんでした。

そのおかげで、戦後の日本の政治的自由と経済大発展がなされたのです。いわば現代日本の平和と繁栄はひとえに、蒋介石総統の「隣人を自分のように愛する愛」によっていると言っても過言ではありません。しかし誰もが、ただ敵国を愛すべきだというような抽象的な思いだけでは、このような純粋な愛を実行することはできません。

「蒋総統、なぜあなたはそれほどまでに日本をかばうのですか」という外人記者団の質問に答えて蒋介石氏はこう言ったそうです。「私が心から敬愛するドクター・カガワの日本を滅ぼすことは私にはとてもできないことです」

このドクター・カガワとは、「世界のカガワ」と言われた、日中戦争に反対して憲兵隊に検挙までされた民衆運動家の賀川豊彦氏のことです。同じキリストを信じる同志として国境を越えて敬愛し合っていた2人の愛が、このような大きな平和をもたらしたと言うことができます。

聖書における神の人間に対する律法(法律)はただひとつです。それは人々が「お互いに自分を愛するように愛し合う」(ヨハネ福音書15:12;ガラテヤ書15:14)ことです。聖書には「愛は律法(法律)を全うする」(ローマ書13:8)と書かれています。また、「愛は隣人を害することがない」(ローマ書13:10)と書かれています。このように愛のあるところに法や規則はいらないのです。ですから、愛のあるところには、本当の自由と平和があります。

それは友人関係においても、家庭においても、職場においても、社会においても、国家においても、国際社会においても、同じです。

法や規則は、愛がないからやむを得ず必要とされるものであって、いわば必要悪なのです。愛があれば法や規則はいりません。裁判所や刑務所もいりません。弁護士もいらなくなるでしょう。ですから私たちはお互いに自分を愛するように愛し合おうではありませんか。ひいては、それが国際法の限界を乗り越えて世界の真の自由と平和を達成していくことになるのです。




5.同じ思いを持つ人々の集まり

ロータリークラブは当初数人のクリスチャンが集まって、それぞれが自分の職業を通して人々に貢献してより良い世界を作っていきたいという願いから始まったと、お聞きしました。

この精神こそがひいては世界平和をもたらすことになると思います。現に国連に多額の献金をされたりして世界平和の一翼を担っておられます。本当にすばらしいことだと思います。今世界のロータリアンは120万人、日本人はその1割の12万人おられると聞いております。ますますのご発展をお祈りしたいと存じます。

私は5年前に数人のクリスチャンの仲間たちと、ビジネスマンにキリストの福音を伝えたいという思いを持って、「インターナショナルVIPクラブ」を発足しました。これは、旧約聖書のイザヤ書(43:4)にある「わたしの目にはあなたは高価で尊い」(You are very important in My eyes.)の言葉から、神の目には誰もがVIPであるという趣旨で、聖書を土台にして、いろいろな方々と知り合い、助け合っていこうというクラブです。

聖書を中心とするこのクラブの働きは、現在都内20数カ所のホテルにおける朝食会、昼食会、夕食会として展開してます。また、それぞれが勤務している会社内でのバイブル・スタディ、各自の家庭を用いての定期集会として大きく発展しつつあります。

東京の外では、横浜、大阪、神戸でも始まりました。海外にも広がっています。またメンバーや関係者の中から国会議員になる人が出たり、外国の大統領に立候補する人が出たり、会社の社長になる人が出たり、外国の牧師・宣教師になる人々が出たりしています。彼らは以前は、自己破産寸前の人であったり、一介の船乗りであったり、家庭が破たんした人であったり、ビザのない不法滞在者であったりした人々です。

そのようにして、私どもは誰でも神の目にはVIPであるとして愛をもって受け入れていますが、同時にこのクラブの中から、キリストの愛によって新しく生まれ変わった人々を、VIPとして社会にどんどん送り出していく働きが始まっています。

このようにして、各個人が神の愛によってその心と生活に本当の平和を持つことによって、家庭に平和がもたらされ、学校や職場に平和がもたらされ、社会や国家に平和がもたらされ、やがては国際間の平和から世界全体の平和が達成されていくことを期待しております。

この道の大先輩であるロータリークラブの皆さまのお祈りとご支援を、心よりお願いいたします。


 平和をつくり出す人たちは、さいわいである。彼らは神の子と呼ばれるであろう(マタイ福音書5:9)


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