涼子の討ち入り


12月14日の赤穂浪士の討ち入りにはちょっと早いけれど、
今日私は、『涼子の討ち入り』をあなたにした。
この17年間、あなたは家庭を顧みなかった。
仕事が一番、バレ−・ボ−ルが二番、・・・・、私が最後と。


あなたが一人で洗礼を受けて、クリスチャンになり、
またしても私は、置きざりにされた『涼子チャン』になった。
そして、あなたは教会からも帰って来なかった。
朝6時に家を出てから、もう午後7時半を過ぎている。
すでに、日曜日の今日も13時間半たっている。
私は、家の明かりを消した。
心の鍵と玄関の鍵をしっかりかけて、ドアチェ−ンまでした。


車の音がした。あなたの車の音。
車庫から玄関へ、あなたがチャイムを鳴らす。
私は、出ない。絶対出ない。
怒っている。


あなたが「開けてよ−」っと、玄関で叫んでいる。
私は、ベッドの上で天井を見つめる。
私の心は冷蔵庫。今や、冷凍庫になった。
あなたが叫べば、叫ぶほど、不思議なくらいに私の心は凍る。
「行きたいところがあるのなら、どこにでも行けばいい。
 外好きのあなたは、好きなだけ、好きなことをすればいい。」


あなたは歩いてどこかに出かけた。足音が段々、家から遠ざかる。
「これでいい。もう終わりにしよう。寂し過ぎる。
 私はもう、待つことに疲れた。」
明日のことも、明後日のことも、雅葉のことも、何も考えなかった。
今そこにある自分の心を、イエス様に預けて助けを求めた。
イエス様が私におっしゃた。
「この討ち入りは、今までの復讐ではないよ。涼子行きなさい。
これからの長い人生を、もっと良いものにするためなのだから。」


二時間後ぐらいに、あなたがチャイムを鳴らした。
絶望のどん底に落ちたあなたと私。
この時、誰かが、昼寝から夕寝に入っていた雅葉を起こした。
普段、たたいても、くすぐっても起きない雅葉が起きた。
何も知らないで、玄関のドアチェ−ンをはずし、
「パパ、お帰りなさい。」と出迎えている。
「ママは?」と、主人が聞く。
「眠ているみたい。具合が悪いみたい。」と、雅葉が答えている。
私は、暗やみの中でじっとしていた。静観していた。
時計は、9時半をさしている。


主人と雅葉で、夕ご飯の用意をしてくれた。
みそ汁と豚肉のしょうが焼き。
雅葉がベッドまでめずらしく運んでくれた。
主人はどこに?・・・ なぜか気になる。
私はベッドの上で、胸が締めつけられるような気がした。
一人で泣きながら、夕ご飯を食べた。
「不満を全部ぶっつけてごめんね、あなたはどこで甘えるの?」
私のわがままが過ぎている。


不思議と、翌週、田淵牧師から私に電話。
「早朝礼拝は、一時の間お休みにしましょう。
 ご主人は、忙し過ぎるから。ご主人に伝えてください。」
私のわがままが、ここまで届いている。
神様助けてください。
私はまだ『涼子チャン』です。完全なクリスチャンにいつなれるの?
意地悪で、元気な私。なのに、病人なの。
心の病人なの。


後日、あるクリスチャンの集会であなたがこの日のことを証しした。
「ドアをたたき壊したい衝動に駆られた。
 以前の僕なら、ドアをたたき壊していた。
 家の中に押し入って、逆に妻を責め倒すこともしただろう。
 でも、イエス様が教えてくれた。
仕事で疲れている男を少しでも家庭で休めさせたい妻の優しさを。
 神様が一番、二番は妻と家庭。
 妻の今の気持ちが、大切だ。
 すべての問題は、イエス様にお委せした。
 そうしたら、おなかもすいたしラ−メンでも食べてこようと思った。
車で出かけると、妻が余計不安になると思い、歩いて出かけた。
 イエス様にお祈りして、散歩しながら家々の明かりを見た。
 すべては、イエス様が整え解決してくださると思った。」


主人へ、「あなたがいるから、私がいる。」
雅葉へ、「あなたがいたから、生きていた。」
イエス様ありがとう。今日まで、こんな私を見守ってくださって。


1997年11月23日

金森涼子






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