書 評

樋野興夫著『がん哲学』、to be出版刊

 現代はDNAゲノム時代である。筆者はガン病理学者として国際的業績も挙げておられ、「牧師総辞職説」を唱えて、ニッポンキリスト教界に一石を投じた人物である。ガンの発生と成長のメカニズムが人生や社会の発展と病理にも適用できることを、「ガン発生2ヒット理論」、「扇理論」、「アルキメデス点と尺取虫運動」と言ったユニークなキーワードで分析してみせる。特に「個性と多様性論」、および「真理の楕円論」−真理は一中心だけの同心円ではなく、二点の拮抗する中心を持つ楕円であること−は興味深い。組織が健全に成長するためには"異分子"の存在が不可欠であり、二点の拮抗によってホメオスタシス(安定性)が図られることから見ると、今日のニッポンキリスト教の牧師一極集中化によるカルト化の病理にもヒントを投げかけている。さらに人を育てる秘訣をも披瀝し、個としてのしかるべきアイデンティティの確立の必要性を訴える。

 本書全体を通してガンの発生と成長の基礎理論を平易に解説しつつ、「静思から得られるガン哲学」を展開し、広範な視野の拡大をはかっている。精神病理が専門の小生も有益なヒントをいくつもいただいた。今後ニッポンキリスト教界には、神学の「バカの壁」の内部だけで生息する人物ではなく、筆者のような冷徹な観察と分析の科学的手法において十分な専門的訓練を受け、しかるべき業績を挙げた世に開かれた人材が必要であろう。小生も一サイエンティストとして、霊的領域を考慮に入れた「霊精神身体医学」を提唱しているが、現教界の病理的状況を見るにつけ、今必要なのは社会においても霊的領域においてもバランスの取れ、人格的にも成熟した筆者のような器である。この意味で今後筆者がさらに深く霊的領域に踏み込まれ、そのサイエンティストしての資質を生かされて、教界に一石のみでなく、二石も三石も投じることを期待する。


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